◆今回の共通テスト現代文と今後
2021年1月実施の大学入学共通テスト第1日程と第2日程が終了しました。国語の現代文問題について、「今後」のためのコメントを簡単に記します。
結果として、第1・第2日程ともに「今回の大問1・大問2は、従来のセンター試験問題と大きな変化がない」というのは、大方の評価通りです。しかし、「共通テストの国語はセンター試験と変わっていない」「今後も大きな変化はない」と判断するのは短絡的であると考えます。
私は2020年度の担当授業で受講生に、「共通テスト対策用の練習問題としてはセンター試験の過去問題を解くのが一番である」という旨を度々伝えてきました。当サイトでも「センター試験の過去問題を解くにしくはなし」と記しました。しかし、その理由は「共通テストの現代文は今後もセンター試験と傾向が変わらないから」ではありません。
*もちろん現代文の基礎学力の本質は今後も変わりません。「このようなマーク式問題では本当の国語力は測れない」などといった幼稚素朴な国語力神話や事実誤認をいまだに、あるいは今頃になって語る一部の共通テスト記述式問題導入論者(そういう人はたいてい本当の教育関係者じゃないんですよね)に対しては、もはや反論する意味すらありません。そんな筆者の記事を掲載するメディアの見識を疑うのみです。しかし、それでは「今後の共通テストの出題形式・見た目や傾向も従来のセンター試験と変わらないのか」といえば、それはまったく異なる問題です。
私が「センター試験の過去問題を解くにしくはなし」と述べてきた基本的な理由は「基礎学力は変わらないから」ですが、もう一つ、2021年1月の受験に向けた当面の理由があり、それは「2021年の共通テストは、記述を前提として作問された試行調査問題とは異なり、センター試験と大して変わらなくなると予想されるから」でした。後者の理由は2021年1月の受験者にしか通用しないものですが、だからこそ、2020年度の現代文の授業では度々語ってきたことなのです。その理由を以下に示します。
当初の予定通りであれば、共通テスト国語第1問には「①記述形式による、②多様な実用的要素の絡んだ、③〈見るからに斬新な〉新傾向問題」が30分間テストの想定で出題されるはずであり、そのモデルは公式の「試行調査(モデル)問題」だけではなく、例の利益相反を指摘された『新時代の大学入試 国語記述式問題への対応』(教育出版)にも露骨に表れていました(これに関しては結局誰もお咎めなしなんでしょうかね?)。このため、マーク式現代文の第2・3問については各15分相当となり、従来のセンター試験(各20分相当)よりも平易な(あるいは短い文章、短い選択肢の)テストとなったはずでした。加えて、本試験ともなれば、大問1~3のすべてにおいて冒険をすることはできず、記述式大問1の予想得点率の極端な低さから考えても、なんとか平均5割を確保する必要があったわけですから、マーク式現代文の2問を無難で平易かつ短いものにしようと考えるのは当然でしょう。
ところが、周知のごとく、共通テストの国語記述式問題には、安易で粗悪な設問、粗雑な採点方法、採点請け負い業者である模試会社の利益相反など、何年も前から真の専門家や教育関係者によって指摘されてきた数々の問題点があり、それらが2019年に至って漸く広く認識されるところとなり、2019年末というぎりぎりのところで出題が白紙に戻りました。そして、新たな「出題方法」が大学入試センターから公表されたのは、2020年1月29日でした。本試験まで1年を切っています。ここから急遽本試験問題の改訂作業が始まるわけです。いわば、「無難かつ平易に作問していた30分相当のマーク式の大問2・3を、数カ月以内に40分相当の共通テストらしい大問1・2に改訂せよ」という無理難題が大学入試センターと作成者たちに課せられたことになります。間に合うはずはないですね。各関係者の動揺と混乱に加えてCOVID-19の問題が改訂業務の進捗をいっそう妨げたことでしょう。したがって、2018年あたりからは作問作業にかかっていたであろうもとの大問2・3を今さら新テスト仕様に大改訂することは無理であり、ほとんどそのまま流用するしかなく、せめて「分量の調整と、最終設問あたりを部分改訂して新テスト感を出す」といった程度のことしかできなかったのではないかと推測されます。
以上もしくはその類のことが、今回の共通テスト現代文問題が従来のセンター試験現代文問題と大差ない理由でありましょう。急ごしらえであった、ということです。とすれば、2022年1月には、今度こそ「これが本当の共通テスト国語問題だ」と言わんばかりの出題となる可能性が大きいと考えられます。来年の受験生は改めて「新テスト」の傾向に備える必要があるでしょう。ただし、あくまでも「傾向」(形式)の話です。繰り返しますが、「理解し、考え、表現する」という意味での、本当の基礎学力は変わりません。また、旧来のセンター試験現代文問題が「暗記偏重」だの「考える必要がない」だのということもありません。そもそも思考の最終アウトプット方法が「マークシートを黒く塗りつぶす」ことだからといって、記述によって愚にもつかぬことをアウトプットしているような人よりも(笑)、受験生の方が余程深くまじめにものを考えていると思います。
因みに、指導に当たる側の問題として言えば、今回の本試験を見てその模擬問題を作ろうとするような安易な姿勢ではいけない、ということです。(とはいえ、「実用国語」だの「新しい学力」だのを謳って、またぞろ阿漕な受験ビジネスを目論むようなものは、ご退席願いたいですね)