◆共通テスト2回実施とは…

大学入学共通テストは、これまで一部の発言力のある人たち(ならびに、それらに対して迎合あるいは黙認した多くの人たち)が専門家や現場の声を無視して数々の愚策を強行しようとしたせいで、受験生、さらに保護者・教育関係者を混乱させ、不安に陥れ、苦しめ続けました。その挙句、各種メディアや国会における批判・追及と実施困難という現実、さらに利益相反の不正の疑いが次々と明るみに出てくるに及び、突然の方針転換へと至りました。2020年に入って文科省の「検討会議」が行われてはいても、広島県の選挙法違反問題や検察トップの人事問題とは異なり、不正の追及・処分は行われず、族議員も特定民間業者も何事もなかったかのようです。

今度は「複数回実施」の亡霊でしょうか?
「新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)による学業の遅れ」を理由として、大学入学共通テストに2つの日程を設け、本来の日程より2週間遅れの第2日程を受けてもよいとする新たな愚策が実施されようとしています。その要点は以下の通りです。

(1)大学入学共通テストの実施期日は、入学志願者がCOVID-19の影響に伴う学業の遅れに対応できる選択肢を確保するため、次のとおりとする。

 ① 令和 3 年 1 月 16 日(土)及び 17 日(日)
 ② 令和 3 年 1 月 30 日(土)及び 31 日(日)

 (2)令和 3 年 1 月 30 日(土)及び 31 日(日)に実施する試験を疾病、負傷等やむを得ない事情により受験できない者を対象として、次のとおり特例追試験を実施する。

 ③ 令和 3 年 2 月 13 日(土)及び 14 日(日)

要するに、共通テストは2回やる(①と②)。従来の「追試験」は、2月に「特例追試験」として実施する(③)、ということですが、ここで注意すべきは、②の第2日程は、あくまでも以下の条件下で受検可となるということです。

(3) ②については,原則として、出願資格に該当する者で以下のAかつBを対象者とする。

 A「令和 3 年 3 月に卒業(修了)見込みの者」のうち,
 B「学業の遅れ」のため②が適当であると在学する学校長に認められた者

したがって、条件Bにより、本来(通常)であれば受験生は誰であれ原則として①を受けるのであり、「大学入学共通テスト実施要項」を額面通りに受け取れば、受検者各自が自由に①か②かを選択できるわけではないことになります。もちろん特定の生徒が感染者であったなどの例外を考えることはできますが、多くの場合、同じ高校に通う複数の生徒のうち、特定の生徒のみが「COVID-19の影響に伴う学業の遅れがある」と「校長が認める」というのはおかしいからです。もしも特定の生徒からの要望を認めてしまえば、その学校長は、自分の高校ではCOVID-19による学業の遅れに対する学校としての指導・支援において、生徒間での格差を生じたと認めることになります。そんなことを校長が認めるなど、原則としてはあってはならないはずです。どのようなときにも、学業が遅れている生徒は常に存在します。「学業の遅れ」が、同じ高校内であるにもかかわらず生徒個々で異なるとすれば、原則としてそれはCOVID-19のせいではなく、単に生徒個々の学習努力もしくは学力の差だということになります。それにもかかわらず、遅れていると称する個人の希望を聞くとすれば、それは不公正であると言えないでしょうか。校長先生が簡単に個別のお願いをきいてくれるとすれば、それは単に便宜供与を学校長が行うということであり、受験機会の公平性や倫理面においても問題です。ところが、6月30日付の日経新聞によれば「文部科学省の担当者は「学業の遅れを証明するものは必要なく、学校長が生徒の希望を聞いたうえで判断する」と語った。」とあります。受験生への思いやりある措置に見えて、実は受験生や教員を無駄に困惑させるだけの極めて軽率な考えではないでしょうか。

上記を是とすれば、①・②のどちらを受けるかは原則として高校単位で決定されることになり、ほとんどの受験生に選択の自由はないと見るのが妥当です。おそらくまっとうな高校では、例外的な生徒に対する措置を除き、事実上はほぼ一律の判断を学校長が下すことになるでしょう。多くは第1日程でしょうね。

ところで、いわゆる進学校の場合、共通テスト水準の学習内容で、しかもたった2週間で間に合うと考えられる程度の「学業の遅れ」など、ありません。また、オンライン授業を実施してきた多くの高校、とりわけ私立高校はもとより、公立高校も含めて各高校は夏休み・冬休みを削るなどし、学業の遅れを取り戻そうと手を打ってきているわけですから、たった2週間だけ入試を遅らせることにはほとんど現実的な意義はないでしょう。すると一体、これは誰のための、何のための措置なのでしょうか?

この措置を提案・決定した者たちは、たった2週間あれば入試水準に学習が追いつくと考えているような情けない指導体制の高校が実在すると信じ、また、たった2週間あれば対策不足が解消するような低水準の大学入試問題を「入試改革」と称して実施しようとしているのだと、認識していることになります。本当にそんなことでよいのでしょうか?

文科省の「大学入試のあり方に関する検討会議」の第6回会合(2020年4月23日)では、大学入試センターの山本廣基理事長が大学入学共通テストは「個人について順位付けするための、大学入学者を選抜する競争試験であり、学力調査や高校までの学習指導要領の達成度を測る資格試験ではない」という見解を表明しています。それが本当なら高等学校における2週間程度の「学業の遅れ」に対して制度を歪めてまで対応する必要はないでしょう。

さらに、条件Aにより、既卒者、すなわち浪人生には何の配慮もされないことになります。浪人生にはCOVID-19に起因する学業の遅れなどないはずだという理屈でしょうが、そもそも学業の遅れを取り戻すための浪人という制度を認めていながら、学業の遅れがないはずだと考えるのはおかしいでしょう。現実には多くの浪人生は、COVID-19のせいで予備校に通うことができず、不安で苦しい思いをしてきました。現役生と浪人生とで受験条件に差をつけることを公式に文科省が認めることは大きな問題です。医大入試で受験生の年齢による差別をした大学が謝罪した経緯は記憶に新しいはずです。

さらにまた、最後の特例追試験(③)については、もうネタがないので共通テストとしての実施は無理なわけですね。②の第2日程は、単に追試験問題の流用でしょう。それで本来の追試験を「特例追試験」などと変名して、出題範囲・内容の異なる旧センター試験タイプの備蓄問題を特例追試験として流用することになったということです。出題範囲が違えば、なるほど正当に「追試験」と名乗るのは、気が引けるのかもしれません……。ちなみに、②(第2日程)は、おそらく本来の追試験用の問題の流用でしょう。もしかすると①(第1日程)に追試験用問題を充てる可能性もありますが、いずれにせよ、追試験用問題として作問されたものは、本試験用問題とは難易度を変えてあるはずです。それなのに、①と②との間では得点調整はしないということですから、明らかに不公平な結果になると予想されるのではないでしょうか。

以上、ここまで不公平な、しかも誰にとってもメリットの乏しい第2日程と「特例追試験」であれば、もともと不備だらけの共通テストですから、いっそ中止したほうがよいでしょう。